蕎麦の知恵袋

●そばに関わる人たちに、そばシーンをリードする川越蕎麦の会と築地そばアカデミーが真に役立つ最先端そば情報をお届けしていきます。

手打ち そば打ちのコツ

手打ちそば打ちは、コツさえのみこんでおけばとても短時間ででき、労力もさほど要りません。最初が肝心ですので、できましたら築地そばアカデミーのように、プロを目指す方から趣味でそばを打つアマチュアを対象とした本格的なそば教室で正しい基本を学ぶことが、結局は上達の最短距離だと考えております。
それでは、早速そば打ちの流れを紹介しましょう。
  • そば道具を揃える
そば道具はこちらで詳しく説明しているので、ここでは基本的に使用する道具をリストすることにとどめます。リストは、そば打ちの準備 に記載してあります。
  • 手打ちそば打ちの材料

■そば粉、割り粉、打ち粉

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そば打ちの材料は、そば粉、水、割り粉(オプション)という3点だけ、極めてシンプルがゆえに、一つ一つ品質を吟味したいものです。
《そば粉》美味しいそばを打つには、良いそば粉を用意しましょう。そば粉は様々な種類があります。産地(どこで栽培されたどんな品種なのか)によってそば粉の個性が違いますので、色々と試すのも良いです。また、粗く碾くか普通に碾くかによって、打ち方も変わります。初めのうちは、普通に碾いたものを入手し、慣れてきたら打つのが難しいといわれる粗碾きの粉にも挑戦してください。一方、同じそば粉でも「さらしな」とか「御前粉」と呼ばれるものは、蕎麦の実のでんぷん質のところだけを用いた粉ですので、熱湯をつかった湯捏ねにします。変わりそばはこれらの粉を使います。
《割り粉》いわゆるつなぎです。色々なつなぎがありますが、小麦粉を割り粉として使うのが最も一般的でしょう。そば粉8に対して割り粉2を入れれば、二八そば(ニハチソバ)になります。そば粉100%で打つ場合(生粉打ち:キコウチ)は、割り粉は必要ありません。割り粉は中力粉か強力粉を用います。(薄力粉は使いません)
《水》粉10に対して水4程度を用いて麺を打ちます。つまり、麺の1/3程度が水でできているというわけです。できるだけ良い水を用いたいものです。こだわるならば、PETボトルの軟水が最適です。
  • 玄蕎麦
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「玄蕎麦」は、そばの実を乾燥させたもので、殻がついたままの状態です。これをそば粉として製粉するには、選別、石抜き、磨きなどの工程を経て、粒の大きさを揃えることなどが不可欠です。玄蕎麦には、食用ではないそば殻がついていますので、製粉工程では、そば殻以外の可食部を損なうことなく取り出す丸抜きを作るために、80%以上の労力を使います。
なお、碾きぐるみとは、丸抜きをふるわずに提供するもののことを指すのであって、そば殻の混入することを許容するものではありません。
  • 丸抜き
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「丸抜き」は、ほぼ同じ大きさにそろえられた玄そばから、殻を取り除いた状態のそばの実です。淡い緑色の皮に覆われ、新鮮なものほど色が鮮やかで、古くなると茶色がかった色になります。これを石臼で碾いて粉にすると、碾きぐるみになります。製粉所では、適切に篩い分けをし、それを再配合することによってさまざまなそば粉を提供しています。
  • そば粉
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製粉のことを、ごく簡単に説明します。丸抜きを石臼で碾いて粉にすると、実の中心部から順にでてきます。一番最初に出てくる粉は「一番粉」と言い、実の中心部が碾かれた真っ白い粉で、最もでんぷん質が多い部分です。打ち粉や更科粉にする部位となります。この部位は水では繋がりません。次に実の中層部分が碾かれた粉の「二番粉」ができます。二番粉は、でんぷん質とタンパク質をバランスよく含み、すばらしい風味や香りがあります。更に碾くと外側に近い部分と種皮が碾かれた「三番粉」となり、栄養価が高く、粘り気のある個性的な食感が特徴です。
  • そば打ちの準備

■手打ちそば道具セット

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《材料、道具の準備》材料、道具をリストアップしました。作業をはじめる前にチェックしましょう。なお、道具は粉1kg打ちを前提にしたサイズになっております。
材料
そば粉800g、割り粉200g、水、打ち粉※
《※打ち粉とは》そば粉の項目で説明している「一番粉」を打ち粉としています。こねた生地を取り扱ったり、麺帯をたたんだりするときに使用します。打ち粉は大量に使うと生地が乾燥しやすくなるためノシの作業をするときは必要量だけを使うようにし、反対に麺帯をたたんで切る際には、そばがくっつかないようにするため多めに打ち粉を使います。
道具
□一尺八寸こね鉢
□麺棒(ノシ棒750mm、巻き棒1050mm×2本)
□幅出し麺棒(長さ450mm)
□ノシ板(800×1200mm)
□こま板
□そば切り包丁
□まな板

□デジタルクッキングスケール
□粉をはかるボウル
□水をはかる容器
□篩と刷毛(そば粉篩、打ち粉篩、打ち粉刷毛)
□そば丸出しゲージ
□そば本のしゲージ
□生舟(なまふね:打ち上がった蕎麦を入れる容器)
粉の計量
二八そばとは、2割の小麦粉(割り粉)と8割のそば粉を混合した材料をさします。このように二種類の粉を計量する場合、原則として少ないほうを先に量って、多いほうをあとから足して全体の量を整えます。
総重量1kgの二八そばを計量する手順は、
(1) 空のボウルをスケールに乗せる
(2) 「on/tare」ボタンを押し風袋モードに(乗せた容器に関係なく画面が0になる状態)
(3) 割り粉を200g量る
(4) そば粉を足して全体を1kgとする
このようにすると、わずかに粉を入れすぎた場合も、一番上の材料を回収すれば調整がききます。
また家庭でのそば打ちのとき、一定量のそば粉をすべて二八にしたいという場合は、「そば粉の重量を0.8で割る」とその商は二八そばの全体の重量となります。
例「500gのそば粉を二八そばにしたい→500g(そば粉の量)÷0.8=625g(二八の総重量)、625g(二八の総重量)−500g(そば粉の量)=125g(割り粉の必要量)ということになります。
九一にしたい場合は、そば粉の重量を0.9で割り、七三にしたい場合は、0.7で割ります。このようにすると、袋に残ったそば粉を余さず使い切れます。 計量したそば粉と割り粉をそば粉篩にかけ、こね鉢に落とします。
いよいよそば打ちの開始です。
  • 手打ちそば打ちのコツ
水を入れたら、5秒がんばる!これがそば打ち最大のコツ。
《水回し》水回しとは、そば粉の中の水溶性タンパク質の力を引き出す最も重要な段階、開始から5秒でそばの品質が決まってしまいます。目的は、水を入れてから、できれば100秒、遅くとも180秒(3分)以内に、乾いた粉を鉢の中からなくすことにあります。まずは、最初の5秒で水と粉をざっくりと均一にする。ここが最大のコツ。
次に両手の指先で鉢を磨きながら粉を動かす、次第に乾いた粉が消え、色濃く、重くなればOK。この作業が不十分だと、粉っぽくごわごわとした食感の悪い麺になってしまいます。仕上がった麺がブチブチちぎれてしまう現象は、水回しがほとんど有効におこなわれていないことを示します。
《のし》もう一つのポイントは、「厚さ」です。のしは、生地の厚みを均一にすることが目的です。正円や真四角など、生地を上から見た形だけにこだわると、どうしても厚みの均一さがおろそかになります。不均一なのしあがりの生地を畳んで切れば、当然不揃いな麺になってしまうのです。遠くから見た生地がどんなに見映えが悪くとも、厚みが均一であれば全く問題ありません。美しく切り揃った蕎麦打ち名人のような麺線に、一歩近づきます。
そば打ちの手順
07792.jpg粉に38-43%程度加水する
07810.jpg粉に水をまわし(最重要)
3211.jpg鉢に粉をこびりつかせない
3261.jpg生地を使って鉢をきれいにする
08012.jpg練ってしっとりさせる
08013.jpg菊ねりしてキズを集め
07829.jpgへそを絞って空気を抜き
07833.jpg円錐形にして頂点をひねる
07835.jpg鏡餅のようにつぶす
3620.jpgゲージで15ミリ厚を確認
07863.jpg麺棒を使って丸出し
07875.jpg四スミを出すかどだし
07881.jpg90度回して、かどだし後半
07892.jpg厚みを均一にし、幅を整える
07961.jpg1.5mm厚に本のし
07907.jpgのし上がった生地を点検する
07914.jpg打ち粉を使って畳む
07915.jpg生地を8枚に畳む
07921.jpg駒板を使って切る
07924.jpgそばを容器に収納する
※この画像は、2006年型の打ち方で、このあといくつかの改良を経て現在の築地そばアカデミースタイルに至っています。
改良を受けた主なポイントは、水回し直後に玉をこしらえる方法を変更し、水回しをより効果的に行えるようにしたこと。本のしの結果をより正方形に近づける方法に改めたため、長く均一な麺がより容易に切れるようになったことです。
  • ズル玉を避ける方法
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そもそも、加水は玉に仕上げる前であればいつでも加水できます。こねはじめても、水が足りないと感じたら、加水できます。このことが保証されているから、最初の加水は強気で少加水にすると良いでしょう。そして加水は、必ず計量して、できれば記録を取るようにしましょう。
「調整」とか「追加」ということで、量らないまま水を「足して」しまいますと、その「足した」分だけで5〜7%位水を入れてしまい、結果的に水分が多いズルズルにした生地になり、とても打ちにくい麺になります。加水する水は、あらかじめ粉量の45%を量っておき、適正と思われるところまで加水しましょう。そしてそば打ちを終えた段階で、容器の中に残った水の重さを量れば、今回の正確な加水率が計測できるというわけです。(この加水方法は、割り粉として小麦粉をいれた二八そばなどに適用できます、そば粉100%の生粉打ちは1回加水のためここで紹介した加水は適しません)
ズル玉は、生地をのし板にくっつかせるため必要量以上に打ち粉を使うことになり、麺棒の仕事を邪魔し、畳んで切れば、麺帯が前方に伸びていき、時折包丁でひねり出てきた生地を落とさなければならなくなります。さらに、切るそばから麺がくっつき、上手く茹でられなくなるなど、ズル玉は良い点が一つもありません。
美味しい蕎麦に仕上げるためには、適正加水を常に心がけるようにしてください。
  • 良いそばとは
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そばの良し悪しはどのようなことで決まるのでしょうか。
第一条件は、原材料のそば粉はもちろん、水、醤油、みりん、鰹節、などが良質で美味しいということだと思います。材料の調達も腕のうち、是非これはと思う品を選んでください。その上で、均一な太さをもち、しなやかに繋がり、十分に長い麺が不可欠になります。この条件を満たした麺ですと、きちんと啜ることができます。
また旨味を理解して仕上げた汁とも相性がよく、麺と汁が完璧に融合したときに良いそばと言えるのではないかと考えております。味わうときは、ひとつひとつの滋味に気づくはずです。
提供するときは、すべてにおいて水にこだわる、ことが重要だと考えます。
  • ソバの顕微鏡画像
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ソバの形状を知り、手打ちに役立てる
石臼で碾かれたソバは、とても小さな存在ですが、そもそもそば打ちというものは、タンパク質や水滴やソバの粒子といった、ミクロン〜サブミクロンのレベルの実体として存在するメンバーが関わる事象です。そば打ちの基本動作である「水回し〜くくり/こね〜のし」などの作業は、これらの物質の物理的形状を活かしながらより良い製麺を行うために、そば打ち人はどのような諸相に留意すべきかを把握しておくべきだと思います。
これらの画像を想像力を働かせながら眺めていると、どうしたらより良いそば打ちができるかのヒントが浮かんできます。
ちなみに、水の分子の直径は、一粒のそば粉の直径の数千分の一です。水回しは、これらの画像に見られるそば粉の空隙にいかに効率良くかつ均一に水の分子を押し込むことがポイントになります。こね(練り)は、正しく水回しされたそば粉の「タンパク質」の粘性を、有効な物理的操作によって最大に引き出すということが目的になります。
ソバ粉(走査型電子顕微鏡の画像、提供:サイエンスワールド)
強力粉(走査型電子顕微鏡の画像、提供:サイエンスワールド)
薄力粉(走査型電子顕微鏡の画像、提供:サイエンスワールド)
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