蕎麦の知恵袋

●そばに関わる人たちに、そばシーンをリードする川越蕎麦の会と築地そばアカデミーが真に役立つ最先端そば情報をお届けしていきます。

郷土そば/ご当地そば

日本全国には特徴ある郷土そばが数多くあります。ここではそのごく一部を紹介します。そばは奈良時代から、救荒作物として作られているほど、私たちの食生活に密着しています。カロリーも低く、ダイエット食、健康食としても人気のそばをもう一度見直してみましょう。
  • 北海道のそば(北海道)
幌加内、江丹別、天塩、十勝、知床など、広大な平野をもつ北海道は日本最大のそば産地です。品種はすべて春撒きで夏に収穫する夏ソバで、キタワセや牡丹(ぼたん)などが主力です。冷涼な気候のため、一部ではダッタンそばも栽培されています。二百十日(9月1日ごろ)のころに、気の早いそば屋が掲げる「新そば」は、北海道産ということになります。
  • 津軽そば(青森県)
つなぎに一昼夜浸した大豆、だしに焼き干しを使用するのが特徴。二昼夜かけて作られるので、保存性が高く、こしが強く、大豆の甘味を感じるそばです。手間がかかるので、現在はこの津軽そばを提供する店も減っています。
  • わんこそば(岩手県)
大勢の人が集まったハレの日の宴で、もてなしとして出されたのが由来。そばを食べ終わって蓋をしないと給仕さんが次々とおかわりを注ぎたしていく楽しい食べ方が特徴です。日本三大そばの一つ。
  • 板そば(山形県)
大きな板状の器(スギ材などの板で作った浅い箱)に、ちょっと太目の田舎そばが盛り付けられて出てくるのが、板そばです。玄そばを碾きぐるみしているので、そばの風味と香りが強いそばです。
  • 会津そば(福島県)
会津地方は冷涼な気候をいかしたそば栽培が盛んで、かつてはハレの日の振る舞い料理に欠かせなかったご馳走のそば。玄そばを使用しているので、そばの風味、香りが楽しめます
  • 常陸秋そば(茨城県)
茨城県の金砂郷在来をもとに、茨城県農業試験場が選抜固定したソバ。1987年(昭和62年)に品種登録された。茨城県を中心として関東地方で栽培される内地の代表品種です。風味はもちろん甘みや香りにも非常に優れています。
  • けんちんそば(茨城県、千葉県)
油で大根、人参、牛蒡、里芋、コンニャク、豆腐を炒め、醤油仕立てにしたけんちん汁そばをつけて食べたり、かけそばにしたりする。味噌味のものもある。
  • 江戸そば(東京都)
江戸時代から続く「藪」「更科」「砂場」などの名店を源流にしたそばを江戸そばと言います。
  • 戸隠そば(長野県)
古くからそばの里として有名な戸隠。そばの実の殻だけを取り除いた「碾きぐるみ」を使用し、薬味には戸隠大根と呼ばれる辛味大根が使われる。ぼっち盛という独特の盛り付けも特徴です。日本三大そばの一つ。霧が発生する高冷地で栽培されるそばは、霧下そばといわれています。
  • 信州そば(長野県)
戸隠の他に、柏原、飯山などの他、更科、美麻、番所、奈川、開田、伊那地方で作られているそばを総称して信州そばと言います。
  • へぎそば(新潟県)
新潟県魚沼地方発祥のそばで、つなぎに海藻の布海苔を使うのが特徴です。しこしことした食感と、ほのかな布海苔の香りがします。
  • 越前おろしそば(福井県)
辛味大根のおろし汁と醤油をあわせたつけ汁に、太くてこしのあるそばをつけて食べます。「越前そば」とも言う。
  • にしんそば(京都府)
甘辛く煮付けた身欠きニシンを、温かいつゆそばに乗せて食べるのが、にしんそばです。現在は、日本全国で食べられています。
  • 出石皿そば(兵庫県)

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■画像:出石そば一鶴様

出石の名物そば。直径10cm程の出石焼きの小皿に一口分のそばが盛られ、つゆと薬味とともに食べます。他に卵やヤマイモが添えられ、味の変化を楽しむことができる。一人前は五皿。店舗によって、白いそば、黒いそばもあり、出汁も様々なので、食べ歩きするのも楽しい。
  • 出雲そば(島根県出雲市)
1638年(寛永15年)、松本城から松江城の城主となった松平直政が、信濃からそば職人を連れてきました。信州そばは、松江の風土に合わせて改良され、出雲そばに発展しました。割子という三段または五段重ねの丸い漆器にそばを盛り付けるので、別名「割子そば」とも言われています。そばは、甘皮まで碾くので、色は濃く、香りが高いのが特徴。器に盛られたそばに、薬味とそばつゆを直接かけていただきます。日本三大そばの一つ。
  • 瓦そば(山口県)
山口県下関市豊浦町発祥の麺料理。熱した瓦の上に、茶そばと具材(錦糸卵や甘辛く味付けした牛肉など)を載せて温かい麺つゆで食べる。1961年川棚温泉の旅館で宿泊者向けの料理として提供され始めました。
  • 祖谷そば(徳島県)
四国の秘境、徳島県の祖谷(いや)で伝統的な栽培法で育てられたそばです。太く短い麺が特徴で、つなぎはほとんど使わない。
  • 対馬そば(長崎県)
伝播経路の中で陸封されたいにしえのそばです。つなぎなしのそばを30cm角のせいろうに盛った名物そば。「こしきそば」とも言う。対馬は、大陸から我が国にソバが伝播した際の中継地点であるとされています。また昔からソバの栽培が盛んで、かつては朝鮮まで輸出していたといわれています。
  • 薩摩そば(鹿児島県)
つなぎに自然薯を使うので、こしの強さが特徴。そして、そば粉は碾きぐるみ、だしは枕崎や山川の鰹節を使用することが多い。店や家庭によって、味や具材も違う個性あふれる一品です。
  • 沖縄そば(沖縄県)
そばといいながら、そば粉を全く使っていない小麦麺です。鹹水(かんすい)を用いるため、食味、食感は中華麺に近い。温めた麺に和風の出汁を張り、煮た豚肉、かまぼこ、ネギ、紅生姜などをトッピングするのが基本形です。そば粉を一切使っていない沖縄そばですが、1979年10月17日に公正委員会から正式に「沖縄そば」の呼称認定を受けました。10月17日は、沖縄そばの日になっています。
  • 高遠そば(福島県南会津郡大内宿)
福島県会津地方で食べられているそばが「高遠そば」という名称なのは、高遠城(長野県伊那市)から会津若松城(福島県会津市)の城主となった保科正之によって持ち込まれたものだからです。特徴は、つゆに辛味大根の汁をつかうこと。江戸時代のころは、辛味大根の汁を味噌で溶いてつゆにしていました、その後、醤油や鰹節などが浸透してくると、辛味大根と鰹節、醤油のつゆが一般的になってきました。
  • 高遠そば(長野県伊那郡高遠町)
長野県伊那市高遠地方では、「からつゆ」と呼ばれる、大根おろしの辛味、焼き味噌の風味、ネギの辛味の3種を合わせて作ったつゆでそばを食べていたそうです。江戸時代初期のころ、まだ醤油を使う前で、そばつゆの原型ともいえるつゆです。 高遠では、この食べ方のそばを普通に「そば」と呼んでいたそうですが、江戸時代保科正之公の転封に伴い、高遠から会津地方に伝えられたそばを会津では「高遠そば」と呼んでいたものが約300年を経過した平成時代(1990年代)になり逆輸入されたかたちで、現在では長野県でも高遠そばと呼ばれる郷土そばを食べることができます。
  • はらこそば(岩手県)
鮭のはらこ(イクラ)をたっぷり載せ、熱い汁をかけて食べます。イクラが半熟状態になって美味しいそうです。岩手県三陸の宮古地方の郷土そば。
  • 寒晒しそば(栃木、長野、山形、岐阜等)
秋新の玄蕎麦を俵に詰めて、清流に30日間浸けてから晴天続きを見計らい、よく干し上げます。外皮を取った一番粉「さらしな」は、アクが抜け、色も白く、舌触りがよいのが特徴です。そばの味が落ちる夏の最中にも新そばの風味が楽しめるといわれ、江戸時代には、殿様や趣味人に喜ばれました。この手間暇かかる手法で「幻のそば」と言われていますが、現在は、栃木、長野、山形、岐阜などでこの「寒晒しそば」を食べることができます。食べられる時期が限定されている地域もあるので、事前に確認が必要です。
  • 鰯蕎麦(千葉県九十九里浜周辺、茨城県)
千葉から茨城にかけての太平洋岸で食べられていた郷土そばで、鰯のすり身と山芋をそば粉に混ぜて作った蕎麦といわれています。現在、そば店で提供されているかどうかは不明です。鰯の煮たものを「かけそば」にのせている、ニシンそばのような形状のものは、あるようです。
  • 開田そば(長野県開田高原周辺)
信州有数のそばどころの一つで、長野県木曽地方のそば。開田そばを使った「御煮掛けそば」や「すんきそば」が有名です。 「御煮掛けそば」は、野菜、きのこ、油揚げなどを入れた汁をそばにかけたもの。煮えた汁をかけて食べることから、御煮掛けそばの名がつきました。「すんきそば」に使うすんきは、木曽で採れる赤カブの葉や茎を乳酸菌で発酵させた漬物で、木曽地方独特の伝統食です。塩は使わず、前年のすんき種を利用し毎年新しく漬け込み、酸っぱい味が特徴です。すんきそばは、このすんきをのせたかけそばで、厳冬期に食べたいそばです。
  • とうじそば(投汁そば)(長野県松本市奈川周辺)
「とうじそば」は、小盛りにしたそばをとうじかご(竹で編んだ小さなカゴ)に入れ、山菜やきのこがたくさん入った鍋(つゆ)で軽く湯がき、たくさんの具やつゆと共にいただきます。冠婚葬祭のごちそうとしても振舞われていました。
  • かっけ(蕎麦かっけ)(青森県、岩手県)
そば粉を練って薄く延ばし、三角形に切ったものを大根、豆腐などとともに出汁で煮て、にんにく味噌やねぎ味噌、くるみ味噌、胡麻味噌などをつけて食べる、郷土料理です。
  • 釜揚げそば(島根県出雲地方)
茹でたての熱いそばを水洗いせずにそば湯とともに器にもり、そば汁と薬味を直接かけていただきます。出雲のそばは、碾きぐるみのため、野趣に富んだ味わいになります。地元では割子そばと同じように人気がある、郷土そばです。
  • 凍り蕎麦(長野県)
こおりそば、しみそばともいい、茹でたそばを一口大に丸め、ざるに並べて夜間外にだしておく、凍結したものを昼は日に当て、これを繰り返して乾燥させます。フリーズドライの保存食です。いただくときは、具沢山の汁をつくり、とうじかごに凍り蕎麦をいれて、汁の中で振って戻して食べます。来客にもてなし料理として振舞っていました。暫く途絶えていた凍り蕎麦は地元の方々により復活し、現在はお土産としても販売しています。
  • しっぽく蕎麦(東京都)
享保のころ、京都祇園で佐野屋喜兵衛がはじめたといわれています。これを江戸に持ち込み、そば、うどんを台とした「しっぽく」は、大平椀に盛り、竹輪、鶏肉、かんぴょう、椎茸、麩などの具材を上置きしたもの。寛永年間に江戸瀬戸物町にあった近江屋という蕎麦屋がメニューにとり入れたという説があり、おかめそばの原型とも言われています。 長崎の卓袱料理を変形、簡略化されたものと思われます。現在は、あまりみかけません。
  • 深大寺そば(東京都)
東京調布市にある深大寺とその周辺から産したそばの総称、または深大寺の門前そば店のこと。江戸時代(元禄時代)、米の生産に向かなかった土地でそばをつくり、そば粉を深大寺に献上し、寺がそれを蕎麦として客にもてなしたのが始まりとも言われていますが、諸説あります。昭和初期には、松本清張や井上靖らも訪れたそうです。1961年(昭和36年)神代植物園がオープンし、その後参拝客、来園者が増えるとともに、「門前そば」が軒を並べるようになりました。
  • 断ちそば(福島県檜枝岐村)
そばの切り方に特徴がある、南会津檜枝岐地方の名物そばです。つなぎを入れないそば粉100%のそばを2mmほどの厚みにのばし、何枚か重ねて、コマ板を使わずに布を裁断するよう包丁で手前に引いて切るそので、断ちそばの名前がつきました。
  • 富倉そば(長野県飯山市)
長野県飯山市富倉に伝わる郷土そば。そばのつなぎに、アザミ科の植物であるオヤマボクチという葉の繊維をつなぎに使ったそば。葉をつなぎにするまでには、日数と手間、労力がかかり、またそばを打つのも大変だそうです。農家が営む食堂では、十割そばにも通じる香りの良さとコシが強い麺が魅力。交通が不便な場所柄ともあいまって「幻のそば」と言われていました。
  • とろろ蕎麦(東京都八王子高尾山)
東京高尾山名物のとろろそばは、大正時代に高尾山 薬王院に参拝にくる登山者や参拝者に精をつけてもらおうと麓の店が提供したのが始まりといわれています。地域により、そばとろ、とろろそば、自然薯そば、山芋そば、芋そばなどと呼ばれる。 箱根では「貞女そば」、京都では「苔の月」というネーミングをつけているお店もあります。
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