蕎麦の知恵袋

●そばに関わる人たちに、そばシーンをリードする川越蕎麦の会と築地そばアカデミーが真に役立つ最先端そば情報をお届けしていきます。

そばを学ぶ

そばは縄文時代後期には、既に日本で栽培され、食べられていたと考えられています。その後長い歴史をかけて、つるつると啜って美味しいそば切りになりました。植物としてのそば、そばの起源、そばの栄養素などを知ることによって更にソバ愛が深まります。
  • そばのデータ
植物としてのソバは、タデ科ソバ属の一年草。ソバムギともいう。
ソバ属は、1.普通種 2.ダッタン種 3.宿根種の3種類に大別される。
1.普通種は、私たちが食べているそば切りの原料となります。日本はもとより世界各地で栽培されています。学名のFagopyrum esculentum は、食用のブナの実に似た穀物という意味です。花の色は白が一般的ですが、ピンク色のもあります(花には独特の臭みがある)。他家受粉のためミツバチやイチモンジセセリなどの昆虫の媒介で受精します。花の後にできる実は、三角錐状のそう果(果皮は硬くて、熟しても裂開せず、中に1種子をもっているもの)で、黒褐色ないし銀褐色になります。
2.ダッタン種は、独特の苦味があるので、「苦そば」ともいわれ、ルチンの含有量は普通そばの70〜100倍近くもあります。海抜1,500m以上の山岳地帯を中心に中央アジア、インド北部、中国などで食用や飼料として古くから栽培されてきました。一年草です。日本でも北海道や長野県で栽培されています花の色は薄緑色、自家受粉、実の形状は、普通ソバとは違い三角錐状ではなく、小麦の種実に似ています。
3. 宿根種は、ヒマラヤ高地からチベット中国中南部に分布する野生種で、多年草です。別名「シャクチリそば」(赤地利そば)ともいわれ、地下に黄赤色の肥大した根があり冬に地上部の茎葉は枯れてしまいますが、春になると地下の根茎から新芽が四方八方に広がっていきます。この若葉は食用や薬草として利用されています。種実は脱粒性があるので、熟するまえに落ちてしまいます。
ソバの原産地は、東アジア北部だと考えられてきましたが、大西近江先生(京都大学)の研究と踏査によって、中国南部の雲南省北西部あたりがソバの起源だということが明らかになりました。在来種のDNA分析をしたところ、発見された野生2倍種分布が雲南地域に限定されていたことによります。中国南部から中国北部へ、朝鮮半島から長崎対馬を経て九州及び日本各地へ渡来したルートが浮かび上がってきました。日本では、縄文後期には既にそばが栽培されていたとされています。
元正天皇の722年(養老6年)に救荒作物としてソバの植え付けを勧められたことが「続日本紀」に記されており、このことから、その頃には既に、広い地域の農民がそばの栽培方法を知っていたことになります。
  • そばの成分
そばの実(玄蕎麦)の果皮(殻)をむいてみると、内部に薄緑色の種皮(甘皮)に包まれた子実があります。玄蕎麦は、外側から中心に向かって、黒い果皮(殻)、薄緑色の種皮(甘皮)、胚乳、ねじれたS字状の子葉部(胚芽)という順で構成されています。外側にあたる甘皮と、中心にあるS字状の胚芽にはたんぱく質や脂肪、繊維質やルチンが多く、種皮の内側にある糊粉層が、そばの特徴的な旨味を持つといわれています。
このそばの実をロール碾きすると、白い中心部から順にでてきます。最初にでてくる粉は実の中心部が碾かれた真っ白い粉で、最もでんぷん質が多い「一番粉」です。次に実の中層部が碾かれた粉で、デンプン質とたんぱく質をバランスよく含んでいる「二番粉」になります。更に碾くと外側に近い部分と種皮が碾かれた「三番粉」になり、たんぱく質が多く含まれています。 通常のそば粉は、これらをブレンドしてたんぱく質含有量を12〜14%に調整しています。
そばの主成分は炭水化物です、この主成分はアミロースとアミロペクチンで、胚乳に多く含まれています。この2つの含有量は品種、産地によって異なるとされ、それが実際に麺にしたときの食感に大きな影響を与えるといわれています。
でんぷんに続いて多いのがたんぱく質です。100g中のそばのたんぱく質は、12mgで、米は6.1mg、小麦(中力粉)で9.0mgですので、そばのたんぱく質の多さがわかります。またそばのたんぱく質はとてもバランスよく必須アミノ酸を含んでいます。 つまりそばの味わいは、食品を支配するたんぱく質と食感を支配するでんぷん(炭水化物)によってもたらされるのです。

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  • そばの栄養素
そばの栄養素としては、まずタンパク質をあげます。三大栄養素の一つで、生命の維持や成長に欠かせないものです。
タンパク質を構成しているアミノ酸値でみますと、鶏卵は、アミノ酸スコア100の食品です。それに対してそばは、アミノ酸スコア92で、とても高い栄養価を備えています。しかも体内で作ることが出来ない必須アミノ酸がバランスよく含まれているのが特徴です。カラダの血や肉を作るタンパク質が、ほぼ卵に匹敵する割合で入っているということです。精白米61、小麦粉(薄力粉)42と比較するといかにそばの栄養価が高いかがわります。
そばに含まれるタンパク質は水溶性であるため、胃に入ったあともさほど消化器官に負担をかけることなく、適切なカロリーと栄養素が吸収できます。
ビタミン類も他の穀物に比較して多く含まれています。 ビタミンB1は、疲れや食欲不振などを予防し、ビタミンB2は、成長に欠かせない栄養素で、目や口、消化器系など体内の粘膜を正常に保つ働きがあります。
そばの栄養素の中でもっとも注目されているのが「ルチン」です。 ルチンは植物に含まれる色素成分フラボノイドの一種で、毛細血管を強化して内出血を防ぐ働きがあります。 そばのルチンは、穀物の中でそばだけが持つ最も特徴的な機能性成分(抗酸化作用)です。 毛細血管の強化、血圧降下作用、膵臓機能の活性化などに有効で、高血圧、心臓病、糖尿病、動脈硬化の予防にもなると言われています。
そばの種子中に含まれるポリフェノールが、脳血管障害やアルツハイマー型認知症などの予防や治療に有効という報告もあります。
他に、食物繊維やカリウムも豊富に含まれています。 そば食に、ビタミンA、ビタミンC、そしてカルシウムを補えば適切なカロリーと必要な栄養素をバランスよく摂取できることになります。
  • 薬味の効能
    1.大根おろし
「大根おろしに医者知らず」と言われるほど、大根は万能野菜。おろすことによって現れる「イソチオシアネート」という辛味成分には、たくさんの効能があります。
○食中毒予防 食欲促進作用 免疫力アップ 眼精疲労の緩和○吹き出物・ニキビ対策○ダイエット効果江
戸時代中期にかかれた「蕎麦全書」には「そばの薬味には大根おろしの絞り汁が最も適している」「もし辛い大根がないときは、絞り汁の代用としてわさびを使う」と記されているそうです。大根は、目の粗いおろし金ですると辛味が抑えられます。
江戸時代には、大根おろしが薬味としてとても好まれていたようです。江戸の人々が、大根の辛さを出すために手間をかけていたことが記録されています。
  • 2.ネギ
ネギ特有の強い香りは、硫化アリルという成分によるもので、ビタミンB1の吸収を助けます。ビタミンB1が多く含まれているそばと一緒に食べるのはとても理にかなっています。ビタミンC、ビタミンK、カルシウム、葉酸、βカロテンなどの栄養素もあります。
○血行促進・高血圧予防○肩こりや疲労回復○消化液の分泌を促す
硫化アリルは刻むことによりたくさん作られ、時間と共に消えてしまいます。
  • 3.山葵
わさびの辛味成分「シニグリン」がそばのビタミンB2のはらたきを高めます。辛味成分「アリルイソチオシアネート」には、強い抗菌・抗カビ作用があり、「グルタチオン-S-トランスフェラーゼ」という成分が肝臓の解毒代謝酵素を活性化させ体内の毒素などを排出しやすくします。
わさびはすりおろすことにより、辛味成分がでてきます。わさびは1年中出回っていますが、晩秋から冬にかけてが一番辛味が増すので、この時期が旬と言えます。
○抗菌作用○がん細胞の増殖抑制作用 ○血栓を予防する血小板凝集阻害作用
わさびはつゆに溶かずに、口が飽きてきたときに箸先を使って直接なめたり、麺の上にわさびを塗ってその部分を汁につけないように召し上がってみてください。つゆが濁らずに、わさびの美味しさをより実感できます。
  • 4.海苔
海苔の栄養価は、海藻類のなかでもとくに優れ、タンパク質の含有量は大豆に匹敵するほどです。鉄分は、ほうれん草の約3倍、カルシウムは牛乳の約6倍。ビタミン、ミネラル、食物繊維もたっぷり含まれています。のりに含まれるビタミンCは、熱に強く、焼いても栄養素がこわれません。いいことづくめの海苔です。
○動脈硬化・心臓疾患の予防○老化防止○ストレス解消○コレストロール低下・胆石予防○貧血予防○がん予防
もりそばにもみ海苔や松葉海苔かけて「ざるそば」として売り出したのは、明治以降のこと。
  • 5.七味唐辛子
「赤唐辛子」「粉山椒」「黒胡麻」「陳皮」「けしの実」「麻の実」青紫蘇」「生姜」「青海苔」の9種類の中から、7種類をミックスしたものを「七味唐辛子」としています。市販されている七味唐辛子は、赤唐辛子+6種類の薬味になり、6種類の中身はメーカーや地域により違いがあります。
唐辛子の辛味成分であるカプサイシンの効能はたくさんあります。 ○冷え性予防○血流改善○高血圧予防○食欲増進○疲労回復○糖尿美容や生活習慣病に対する予防効果もあります。 江戸時代庶民に人気のあった「そば」との相性が良いということ、7つ薬味が風邪に効く漢方であったことから、爆発的な人気になったと言われています。
一味唐辛子は、唐辛子のみです、七味唐辛子より辛い。
  • 6.薬味いろいろ
上記の他には、紫蘇、茗荷、生姜、木の芽、胡麻、ゆず、胡桃、梅干し、鶉の卵、すだち(カボス、レモン)、花かつおなども薬味として使われています。また、焼き味噌や梅干し、胡桃なども薬味として使われていたそうです。
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